専門家コラム
Expert Column

2022年12月5日に施行された改正航空法は、ドローンの飛行に関するルールの一部改正によりいわゆる「レベル4」の飛行が可能となり、初めて人がいる場所で、且つ、操縦者が目視できない場所でもドローンの自律飛行ができるようになりました。
「レベル4」を実施するには、2022年12月から新たに始まる国家資格の取得も必要となります。

様々な事業者がドローンを輸送手段として事業化を進めている

この制度変更により、今後商用でドローン配送(食料品や医薬品等)を活用する事業者も増えてくることと思われます。

この点、2016年5月には楽天が千葉県内のゴルフ場において、プレーヤーがスマートフォンアプリで注文をすると、軽食や飲料をクラブハウスからティーまでドローンで届ける世界初のサービスを開始。2018年11月には福島県南相馬市で日本郵便が日本初のレベル3(無人地帯での補助者なし目視外)の飛行による郵便局間の荷物輸送を行ったほか、2019年1月には秩父市で楽天が送電線の上空を空の道として利用したドローンハイウェイを使った荷物輸送を実施。2019年3月には長野県伊那市でKDDIとゼンリンが、それまで国土交通省が研究開発していた物流用ドローンポートシステムを活用した荷物配送を行う等の実証実験が行われてきております。
ただ、これらはあくまでも離島や過疎地等の場所で繰り返されてきたものであり、今後5~10年以内には、今回の法改正も踏まえ、いよいよ市街地上空でドローンが日用品等の配送のため飛び回る時代が到来するかもしれません。

ドローンを商用利用する場合、利用規約等の変更が必要!

今後商用でドローン配送を実施する場合、利用規約の制定又は変更が必要になってくると思われます。
上述の通り、まだまだ商用でのドローン配送は一般的ではないため、ドローン配送を新たに開始する場合には利用規約等を新規で制定する必要があると思われます。
一方、既に物流業を担っている事業者がドローン配送を開始するとして、そのために利用規約を変更する場合、どのような観点で今後変更が必要になりうるのでしょうか。

以下、一例として検討してみたいと思います。

1.配送方法の指定等に関する規定
  • 物流各社によって、利用規約や運送約款が異なりますので、一概には言えませんが、まず、ドローン配送をサービスとして行うことを明示することになるかと思います。これまでは基本的にトラック等で配送ドライバーが荷物を運び、お客様のご自宅等の指定された場所に配達する、というのが基本的なサービスとなりますが、新たな配送方法をお客様は選択できることとなると思います。そうしますと、利用規約等にドローン配送の内容や方法、料金、配送方法の指定等に関する規定が新たに必要になると考えられます。

2.配送方法の変更等に関する規定
  • また、ドローン配送が可能となった場合、お客様は配送方法を選択して指定することになると思いますが、ドローン配送をやめて、通常のトラック等により配送ドライバーが配送する方法に変更されたい、という要望が出てくると思われます(逆もしかりですので、通常のトラック等での配送を当初依頼していたが、ドローン配送に変更されたい、という場合もあると思われます。)。
    そうしますと、配送方法の変更をどのように受け付け、実施するのか、配送場所(例 ドローン配送の場合は自宅の庭に配送で良い、といった指示になる可能性もあると思われます。)の変更等も想定した内容を規定する必要が出てくると思われます。

3.配送者に関する規定
  • これまでのようなトラック等で配送する場合、配送ドライバーは二種免許や中型~大型免許を有する必要がありますが、その点を利用規約の中に設けることは通常ないと思います。法律の規定でもありますので、わざわざ書く必要もない、というところでしょうか。一方、ドローン配送の場合、「レベル4」を実施するためには、「一等無人航空機操縦士」という国家資格を有する方が、「第一種機体認証」を得た機体で飛ばす必要が生じます。この点も、航空法を始めとした各種法令やガイドライン等の改正・施行状況等も見ながら、利用規約上に明示する必要があるかどうか、利用規約と一体となったWEBページ内や別紙の形で記載する方法とするか、そもそも規定を不要とするか、等の判断が必要となるのではないか、と思います。

4.運賃の支払方法に関する規定
  • 配送業者に荷物を届けてもらう場合の運賃の支払方法についてですが、例えば、①営業所に荷物を持ち込んでその場で現金決済やカード決済をする方法。②WEB上でアプリ等を使用し決済する方法。③配送ドライバーが直接お客様のご自宅等で手渡しをするような場合、その場で現金やカードで決済する、という方法(着払い)等があるかと思います。
    この点、ドローン配送の方法ですと、基本的には上記、①営業所での決済や②WEB上の決済、が基本となり、③の方法はなくなるのではないか、と思われますが、ドローン配送の場合の運賃の支払方法について利用規約等に明示することは必要になるのではないか、と考えられます(ドローン機体に決済システムが備えられ、お客様がドローンにタッチすることで即座にカード決済が可能、という③と同じような状況も今後可能になるのかもしれません。)。

5.事故(不着や破損等)
  • 現状の配送ドライバーが直接荷物を配達する場合にも、荷物が届かない、荷物が破損した、といった事故に関する規定を通常設けていると思います。この点はドローン配送の場合も同じようなこと(広い意味での不着や破損等)が起こりえますので、大きく規定を変更する必要はないのではないか、とも考えられます。ただ、ドローン配送の特殊事情としまして、例えば、荷物を飛行途中に落とす、飛行途中に無くす、指定された住所と別の住所に届けてしまう、指定された場所(自宅の庭等)とは異なる場所に届けた、指定された場所には届いたが屋外のため雨で濡れて汚損した、等、配送ドライバーが通常届ける場合と異なる状況、が想定できますので、このような広い意味での事故が起こった場合の対応や免責等について、規定をしていくことも考えられます。

6.責任(損害賠償・免責等)
  • この点も、5.と関連しますが、通常の配送事故に対する損害賠償責任、ということで利用規約上の規定は既にあるのが普通だと思われます。5.でも触れましたが、ドローン配送の場合に起こりうる特殊事情も考慮のうえ、免責条項を加えるのか、損害賠償の範囲や内容に変更を生じさせるのか(例 一般的にお客様からの指図がありその方法に従ったことについて故意や重過失がない場合、配送事業者は免責される、というような規定を設けることもあると思います。ドローン配送の場合のルートの指定や配送場所の指定等で事業者が免責となる、というような規定も今後検討できる可能性があると考えられます。)等、利用規約の規定を見直してみる必要があるかもしれません。

以上、配送事業者が今後ドローン配送を行う場合の利用規約の変更、というイメージで検討してみましたが、上記はあくまで検討項目の一例に過ぎません。今後さらなる法改正やさらなる規制等も出てくると思われますので、そのような社会状況等も見ながら、利用規約を随時見直し、変更していくことが重要ではないかと考えます。