専門家コラム
Expert Column

利用規約を作る目的は、利用条件や禁止事項、利用料金、トラブルの解決方法など、契約の内容をあらかじめ統一的に定めておくことで、トラブルを未然に防ぎ、自社が被るかも知れないリスクを最小限に押さえることにあります。

消費者にサービスを提供する事業者としては「民法では契約自由が原則だし、利用規約は同意をもらうのが前提だから、出来るだけ自社に有利な形で作ってしまおう。」と考えても、無理のないことかも知れませんね。

『本サービスを利用して生じた損害に関し一切の責任を負いません』という規定は通用するのか?

結論としては、このような規定は無効です!!

消費者契約法」は、消費者と事業者の情報格差や交渉力の格差に配慮して、消費者の立ち場を保護する法律ですが、その中で

「事業者の債務不履行による損害賠償責任をすべて免除する旨の条項」は無効(第8条第1項)

と定められているからです。
「どこかで見たことあるぞ?」と思うかも知れませんし、世の中には未だにこの様な規定が存在していることも事実です。この様な一方的な免責文言は消費者契約法によって無効にされる条項の代表例となっています。

それでは、例えば
『当社は一切損害賠償の責を負いません。ただし、当社が過失があると認めた場合に限り当社は損害賠償責任を負うものとします。』
ではどうでしょうか?
「過失があると認めた場合はちゃんと賠償をするんだから大丈夫だろう」と思うかもしれませんが、これも無効です!!
2018年の消費者契約法改正で、

「事業者が責任の有無や限度を自ら決定する条項」も無効

と明記されました。

更に、

「故意又は重大な過失により消費者に生じた損害を賠償する責任」については、その「一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」(第8条第2項)も無効

と定められています。
損害賠償額をあらかじめ決めることは、ビジネスの世界ではよくあることですが、消費者契約法では、事業者の故意又は重大な過失によるものについては、損害賠償額を予定しておいたとしても実際の損害に見合わない額であった場合には、消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除するものとみなされて無効となります。

例えば、「当社が損害賠償責任を負う場合、その額の上限は 1 万円とします。」と定めても、故意または重大な過失があれば全額賠償する責任があることになる訳です。

消費者契約法
第二節 消費者契約の条項の無効
(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
  • 第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
    1. 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
    2. 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

損害賠償リスクを負う前に利用規約の見直しを!!

『本サービスを利用して生じた損害に関し一切の責任を負いません』というような文言は、法的に無効ですので、実際に損害賠償責任が生じた場合にはユーザーから訴えられるリスクが高いと言えます。
また、各企業のWEB上の利用規約は一般消費者が容易に確認出来る訳ですから、この様な条項を利用規約の中に放置しておくことは、企業のコンプライアンスに対する不信を招き、場合によっては炎上、バッシング・・・。実際に企業の評判を大きく下げてしまったという事例もいくつもあります。
この様な条項を放置すると、企業価値を損なう様なとんでもないリスクに繋がるかも知れませんのでご注意下さい。